用語解説 第167回テーマ:水素サプライチェーン

2025/02/04

杉政 昌俊〔(株)日立製作所〕

1. 水素サプライチェーン

令和6年5月に成立した「水素社会推進法」では,2050年のカーボンニュートラルに向けて,低炭素水素等のサプライチェーンの構築を早期に推し進めることが基本方針の一つとされている(1)。特に化石燃料に比較して体積エネルギー密度が低い水素のサプライチェーンの構築には,大規模・高効率・低コストな輸送方法の確立が必要であるため,様々な輸送方法の開発・検証が進められている(2)。

2. 液化水素輸送

水素は−253℃で液化し,体積エネルギー密度は常圧の気体に比べて約800倍となるため,輸送効率が向上する。海外からの大規模輸入に向けて液化設備,輸送船,貯蔵設備などのインフラ設備の開発が進められている。

3. 水素キャリア輸送

水素を他のエネルギー密度の高い化合物(水素キャリア)に添加して輸送し,需要地で水素を放出して使用する。国内ではアンモニア,MCH(メチルシクロヘキサン),メタンなどが検討されている。いずれも高い体積エネルギー密度を有しており,既存のインフラ設備で輸送できる。製造プロセスの高効率化,大規模化や水素を取り出すためのエネルギーロス低減などの開発が進められている。

4. その他の水素輸送方法

水素はパイプラインでも輸送することが可能であり,長期的に最も安価な方法と考えられている(3)。安全性や新設場所や新設コストについて検討されている。また,水素を物質として輸送するだけでなく,系統送電線で再生可能電力を送電して,需要地の近くで電気分解によって水素を製造することもできる。

文献

(1) 資源エネルギー庁:水素社会促進法について (2024)
(2) 資源エネルギー庁:水素・アンモニアを取り巻く現状と今後の検討の方向性 (2022)
(3) 世界経済フォーラム:「水素の活用という難解なパズル」(2021)

【電気学会論文誌B,145巻,2号,2025に掲載】

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