電気学会 会長声明 持続可能なポストコロナ社会の実現に向けて

2020/09/10

持続可能なポストコロナ社会の実現に向けて

2020年9月10日
一般社団法人 電気学会
会長 斉藤史郎

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的なパンデミックとなり,地域,国そして世界中で感染拡大防止に向けた努力が懸命に行われています。世界保健機関(WHO)はCOVID-19パンデミックを1世紀に1回の健康危機と警鐘し,この影響が今後数十年にわたるとの見解を示しています。また,我が国ではここ数年,令和2年7月の豪雨,令和元年の東日本台風(19号)や房総半島台風(15号)による災害,平成30年の北海道胆振地方中東部を震源とする地震など,我々がこれまでに経験したことのない規模の自然災害の脅威にも直面しています。自然災害への防災や減災,感染症に対する防疫などは喫緊の社会課題であり,また,今回のCOVID-19パンデミックに対する新しい生活・行動を通した経験や新たな価値観が,社会システムの大きな転換を推し進めていくと考えられます。

 本声明は,喫緊の課題である防災・減災・防疫に対応しつつ,安全・安心で持続可能なポストコロナ社会の実現に向け,電気技術の貢献とそのための活動に関する電気学会の方針を社会一般のみなさまに宣言するものです。

 電気学会は1888年の創立以来,我が国の産業が発展し,それを支える電力需要が伸びる中,電気技術の普及に努めるとともに,電気技術に関わる「基礎・材料」,「電力・エネルギー」,「電子・情報・システム」,「産業応用」,「センサ・マイクロマシン」の学問分野で専門技術を深化させてきました。また,喫緊の社会課題である防災・減災・防疫とともに,我々が取り組むべき中長期的な課題,目標として,世界的なエネルギー転換と脱炭素化への課題,および世界的な協働目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」があります。これらの課題や目標の達成が,ポストコロナ社会において失速することがあってはなりません。社会課題への対処と新しい価値観が結合することで,DX(デジタルトランスフォーメーション)や5G時代を見据えた新たなイノベーションも大いに期待されます。
 持続可能なポストコロナ社会の実現に向けて,電気学会として,様々な貢献をしていきたいと考えており,以下の項目を重視して取り組んでいきます。

1.防災・減災,防疫への取り組み

 防災・減災への対応として,2019年7月に「防災・減災のための電気エネルギーセキュリティ特別調査専門委員会」を学会本部に設置しました。電気エネルギーのセキュリティ確保に向け,検討すべき課題を抽出,整理し,それらの解決への視点を社会に提言していきます。また防疫においては,遠隔・非接触が鍵となります。そのために,デジタル化,IoT,AIやデータ利活用など,新たな技術開発を進めます。

2.レジリエントな社会システムの実現への取り組み

 昨今の大規模な自然災害による被害を経験し,産官学で電力供給の強靭性(レジリエンス)の強化に向けた取り組みが進められています。私たちの生活,産業は,電気がなくては成り立たないことは言うまでもありません。電気を”つくる”,”おくる”,”つかう”ことが安定的かつ持続的に可能な社会システムの実現に向けて取り組みます。

3.イノベーションの創発と普及

 世界的なエネルギー転換や脱炭素化の流れとともに,国内におけるエネルギーミックスの課題や電気事業の自由化など,我が国の電気を取り巻く環境は様変わりする変革期にあります。ポストコロナ社会において,この変革を失速なく推進する必要があります。また,ポストコロナ社会における産業・学術・教育活動などにおいては,その生産性や効率,コミュニケーションの改善も必要です。これらの実現にはイノベーションが不可欠です。電気学会は,イノベーションの創発・普及に向けて,専門分野の知識領域を広げ,新しい知識を得るための連携や,自然科学と社会科学の接合なども推進します。

4.社会と知識を共有する場の創出

 電気に関わる学術・技術が社会的価値を生み出すために,電気学会では,社会一般の皆様と電気工学・電気技術の知見を共有する場を創出する活動を推進しています。電気の基礎的な知識だけでなく,ポストコロナ社会における防災・減災・防疫に役立つ知識・技術の共有も進めます。電気学会は,知識を共有する様々な場を創出して多様なコミュニティを形成し,持続可能なポストコロナ社会の実現に貢献していきます。

5.新しい生活様式への貢献

 感染防止対策を講じながら社会生活を送るために,政府から新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」が提案されました。この新しい生活様式は,各々の生活にあった形で実践することが必要になります。職場や家庭など様々な場面で快適でスマートな社会生活を送る人々の健康と安全を保つことを第一に,みなさまからも共感をいただける技術領域で貢献していきます。

 上記方針のもと,電気学会の具体的取り組み技術を紹介します。


[電気学会の具体的な取り組み技術]

社会全体で

  • いかなる時でも社会の基盤となる電気エネルギー安定供給のための技術
  • 防災・減災,防疫のためのスマートでレジリエンスな電気エネルギーセキュリティ技術
  • 脱炭素のための発電,送配電技術
  • エネルギーの安定供給を支えるシステムの監視・制御技術,情報通信技術

エネルギー利用の場で

  • 生活の質向上や快適なスマート社会の実現のための電気機器・パワーエレクトロニクス・制御等の技術
  • 高効率で脱炭素化のための電気利用技術 (電気自動車,蓄電池など)
  • 安全・安心な社会のための監視・制御及び通信・ネットワーク技術,非接触認証技術(顔,掌紋,虹彩など)
  • テレワークの浸透による電力需要パターンの変化や気象変動に対応した需要予測と気象予測の精度向上

家庭や職場で

  • テレワークや効率的な働き方を支援する技術
    例:業務自動化技術(RPA),バーチャルリアリティー(VR),拡張現実(AR),複合現実(MR),代替現実(SR),五感センサ技術
  • 非加熱殺菌技術や空気清浄のための電界応用技術
  • 生産性向上のためのシステムログによるAI解析技術

医療の現場で

  • オンライン医療・介護・リハビリのためのリアルハプティクス技術(※)
    (※)現実の物体や周辺環境との接触情報を双方向で伝送し力触覚を再現する技術
      例:遠隔ロボット技術,非接触インタフェース技術
  • 疾患の早期発見やオンライン医療のための生化学データ取得,状態把握・可視化のためのセンサ技術,これらを搭載したロボット技術
  • 環境状態を把握する超微量のウイルス検出技術
  • ストレス解消・やる気の創出のためのヒューマンセンシングによる人の状態把握技術


以上



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