「デジタルの日」に寄せて

2021/10/01

「デジタルの日」に寄せて

2021年10月1日
一般社団法人 電気学会
会長 大崎 博之

1. 「デジタルの日」の創設

 2021年より,「デジタルの日」が創設されることになりました。「誰一人取り残さない,人に優しいデジタル化」を実現するために,デジタルについて振り返り,体験し,見直すための定期的な機会としての記念日です。「デジタルの日」のホームページも開設されています(https://digital-days.digital.go.jp/)。2021年デジタルの日は,2進数の数字の1と0を組み合わせた10月10日,11日の2日間で,政府によるイベント等が実施される予定です。
 また,2021年9月1日,デジタル社会形成の司令塔となるデジタル庁が内閣直属の組織として発足しました。デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進し,デジタル時代の官民のインフラを今後5年で構築,整備していくことを目指しています。

2. デジタル技術と教育

 1970年代後半にマイコンやPCが登場し,人々がデジタル技術に触れることが増えてきました。1990年代に入ってインターネットが普及し始め,その後も,半導体技術や情報通信技術が大きく進歩しました。現在,一般の人が使うデジタル機器の代表であるスマートフォンやタブレットの使いやすさはたいへん向上しています。さらにそれらに加えてAI,クラウド,5Gなどが発展して,デジタル技術は大きく展開しようとしています。
 以前は,このようなデジタル技術を学ぶのは大学や専門学校などの段階でしたが,2000年代に入って初等中等教育において情報教育が本格的に開始され,情報活用能力の育成が行われています。そのため,デジタル技術に親しんでいる程度にかなり個人差があるとともに,世代によるギャップも大きいため,人に優しいデジタル化を進める取り組みは大事です。世代を超えて多くの人々にとってのユーザーエクスペリエンスを向上させていくことが期待されます。また,急速に進歩するデジタル技術をある程度の高いレベルで使えるようになるためには,専門的な教育が必要であり,さらにデータサイエンティストの養成となると,現状ではその需要に全く追いついておらず,そのような人材の育成も必要です。

3. 新型コロナの影響

 わが国において,以前からデジタル化の遅れが指摘されていましたが,2020年から感染拡大した新型コロナウイルス感染症への対応において,わが国のデジタル化における課題が顕著になり,デジタル化の加速が必要になりました。一方,新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって,学校や大学でのオンライン授業,企業等でのテレワークの実施などが,これまででは考えられないスピードで推進され,時間や場所の壁を容易に越えて活動する可能性を知ることになりました。その一方で,対面での活動の重要性も皆さん感じているところと思います。感染が収まると,以前の状態に戻ろうとする力が大きく働くことが懸念されますが,今後は,オンラインのサービスを含むデジタル技術を活用して,新しいスタイルの活動をしっかりと取り込んでいくことが肝要です。

4. デジタル・トランスフォーメーション(DX)

 DXは,デジタル技術によって人々の生活や社会活動をより良いものに変革する大きな概念です。しかし,いきなりDXについて検討しなくても,アナログ情報のデジタル化であるデジタイゼーションから始めることでもよいですし,ビジネスモデルや戦略を含めて長期的な視野でデジタル化を推し進めていくデジタライゼーションにつなげることも重要です。さらにDXを進める上では,最近話題になっているAI,RPA,5G,IoT,クラウド,ビッグデータ,ICTなどの技術が深くかかわってきます。
 一方で,サイバーフィジカルシステムは,サイバー空間と物理空間を連携させて,物理空間からセンサなどで得たデータを,コンピュータやネットワーク上のサイバー空間で解析し、得られた知見を現実世界にフィードバックして問題解決・最適化を実現します。このサイバーフィジカルシステムを活用することがDX推進に役立つと言えます。
 また,このような中,サイバーセキュリティ対策,およびパーソナルデータの利活用におけるプライバシーへの配慮もますます重要になってきています。

5. 電気学会とデジタル技術

 電気工学分野の研究開発において,デジタル技術は重要基盤技術であり,直接の研究対象にもなります。デジタル技術にかかわる教育やDXの推進などは当然重要であり,電気学会もデジタル化に注目した活動を展開しています。例えば,電力・エネルギー部門の令和3年部門大会では,「デジタル化が切り拓く2050年カーボンニュートラル ~電力・エネルギー部門の挑戦~」というテーマでパネルディスカッションが行われ,カーボンニュートラルへ向けたデジタル化の重要性について広く議論されました。今後も,電気学会の幅広い活動の中で,人に優しいデジタル化やDX推進にかかわるテーマについて多様な意見を交えて議論が行われ,それらが学術の発展,社会生活の向上につながるものと考えています。