平成23年度(第98代)電気学会会長 大久保 仁
2011/06/01
このたび120余年の伝統ある電気学会会長に就任しました.これから1年間,会員の皆様と共に電気学会の発展に尽くしたいと思っております.会員の皆様のご参画とご協力をお願いいたします.
さて,わが国ほど自然災害に備えてきた国はないと思います.しかし東日本大震災という未曾有の大災害が起きました.この大震災が我が国の近代産業社会の風景を一変させました.電気・電子工学,電力技術などのいわゆる「電気」に関する技術についても,環境が変わりました.近代化された先進国でこのような膨大な数の死亡・行方不明者を含む大災害が起こった今,工学として,学術として,技術分野として,その根本的な位置づけが問われています.また大震災の直後から福島第一原子力発電所の問題と,それに続いて電力供給・計画停電・節電などの議論が出て緊急の対応が求められています.
近代社会の発展と共に社会のシステムはこれまで,安全であらゆるものに活用でき効率の良い「電気」依存度を高めてきました.今回の災害により,近代社会における「電気」をベースにした社会システムの重要性を再認識したとともに,そのあり方の総合的検証が求められています.「電気」システムの拡充と共に,システムセキュリティーやリスク分散など,ひいては社会の安全・安心を保障する社会的受容性に対する総合的検証が必要です.
このような観点からみると,これまで提案されてきたスマートグリッドは,その後の発展と共に産業界, 交通,そして家庭など,社会全体を包含し展開していくことにより,文字通り「スマートな社会」の構築を目指すものです.
電気学会は,基礎・材料・共通技術のA部門,電力・エネルギーのB部門,情報・通信・システムのC部門,産業応用のD部門,そしてセンサ・マイクロマシンのE部門と,将来の安全・安心スマート社会形成に必要不可欠な技術部門を有しており,これは電気学会が有する強いIdentityです.
各部門においては部門の基盤技術をより一層高めるとともに,スマート社会構築に向けて,部門間連携技術の展開,学際領域の積極的取り込み,他分野,諸外国を含む他学会との大いなる協調などを推進していくことが求められます.また同時に,電気学会としてグローバルな視点の下で,将来における「電気技術」の社会的受容性を高めていくことが使命です.
このように電気学会はこれまでの基本政策に基づき,重点活動項目として,
(1)部門活動・部門間連携活動の強化
(2)新しい学際分野の積極導入
(3)支部活動の活性化
(4)国際的視野の先導的電気技術者の育成
を挙げ,学術の発展に寄与し社会に貢献します.また電気学会が有する人的財産を活用しベテランと学生・若手会員が協働参画できる場を提供します.
東日本大震災による復旧・復興を全力で支援し,将来の新しい社会実現のために,会員の一人ひとりの参画による,内外に開かれた電気学会をめざします.会員の皆様の絶大なるご協力をよろしくお願いいたします。
【電気学会 会長声明】
このたびの東日本大震災により,お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに,被災された皆様方に対し,心よりお見舞いを申し上げます。また,人命救助,被害者の救済,インフラの復旧等にあたられている方々に対し,心より敬意を表するとともに,被災地の皆様の日常生活への一刻も早い復旧をお祈り申し上げます。
今回の震災では,インフラとしての電気の重要性が再認識された一方,東西の周波数の違いや計画停電等,日常では話題とならない電力系統の特徴が大きくクローズアップされました。また,福島原子力発電所の事故を受けて,今後のエネルギーはどうあるべきかという国のエネルギー政策を見直そうという意見も出されています。
このようななか,電気学会は,広く社会に電気および電気エネルギーに関する情報を発信するとともに,災害の復旧・復興を最大限に支援し,将来社会のあり方を社会と共に提言し,以下の行動・活動を行います。
- 電気学会は,現代日本における社会活動のほぼすべてが「電気」に依存していることに基づき,社会の根底を支える一次インフラシステムとしての電気供給の復旧を全力で支援します。
- 電気学会は,電気システムの復興に当たって,全国大で停電回避,リスク分散を図り,環境に配慮した新しい社会における電気システムのあり方を提案し,安全・安心社会に貢献します。
- 電気学会は,将来において安全で安心な持続的発展社会を構築するために,電気に基づく社会システム技術をリードする国際的視野の人材を育成します。
最後に,今回の震災に対して日本が一丸となって立ち向かい,一日も早い復興を成し遂げることを祈念して会長声明といたします。