電子情報通信学会・電気学会 会長共同声明 ~第7期科学技術・イノベーション基本計画の実行フェーズ加速に向けた提言~
2026/07/28
一般社団法人電子情報通信学会
会長 辻 ゆかり
一般社団法人電気学会
会長 岡本 浩
1.はじめに
第7期科学技術・イノベーション基本計画は2026年4月に始動し、「科学の再興」「技術領域の戦略的重点化」など六つの柱を実効的なものとする実行フェーズへと移った。本フェーズは、我が国の科学技術力を強化し、持続的な成長と安心・安全な社会を実現するための喫緊かつ重要な転換期である。昨今の生成AIをはじめとする技術進化は極めて速く、5年先、10年先を見据えると、研究開発、社会実装、制度設計、人材育成を同時並行で進めなければ、国際競争力で遅れをとる恐れがある。
電子情報通信学会は、電子および情報通信分野を中核とする学術コミュニティとして、デバイス・通信からAIにいたるまで、長年にわたり我が国の科学技術および産業の発展に寄与してきた。2017年5月の創立100周年宣言[1]では、本会がコミュニケーションの夢とそれによって実現される豊かな未来社会に向けて果敢に挑戦し、革新的技術及びイノベーションを継続的に創出する学会として大きく飛躍することを目指し、以下の宣言を行った。
1. 広汎な知が交流する場を作り、新たな学術領域をひらく
2. 社会課題の解決に貢献し、新たな社会のビジョンを作成する
3. 技術倫理の向上に努め、社会に向けて発信する
さらに、2025年6月に発出した会長声明[2]では、第7期科学技術・イノベーション基本計画の策定に向けて、研究力の強化・人材育成、イノベーション力の向上、サイエンスとビジネスの近接化、新たなグローバリズムの推進に関する提言をまとめ、国に対して要請してきた。
電気学会は、1888年設立の電気技術に関わる学術コミュニティとして、以来138年にわたり、電力・エネルギーから産業応用にいたるまで、我が国の電気技術と産業の発展を支えてきた。初代幹事・志田林三郎は設立時の講演において、電気を「人生の奉仕に増益する上において必要欠くべからざる一大利器」と位置づけ、遠距離送電や映像通信など今日の社会基盤の姿を予見した。2022年に策定した新グランドデザイン[3]では、“豊かで安全安心な社会”、“持続的発展が可能な社会”の実現への貢献を掲げ、自然科学のみならず人文・社会科学を含む分野横断の「協創を生み出す場」の提供、他学協会との連携・融合、規格・標準化活動における体制強化を長期戦略として定めた。さらに2026年5月の会長就任挨拶[4]においても、電力(ワット)と情報(ビット)、そして演算に伴い発生する熱を一体として捉える「電脳熱融合」の視点を掲げ、電子情報通信学会をはじめとする他学会との連携により、AI時代の持続可能な社会基盤の構築に貢献していくことを表明している。
このたび、本基本計画の始動に際し、実行フェーズの更なる加速を図るため、全ての産業分野や社会活動を下支えする電子情報通信と電力エネルギーの研究コミュニティとして、電子情報通信学会および電気学会は、国に対し、以下の提言を行う。
2.実行フェーズにおける重要認識
第7期科学技術・イノベーション基本計画の実行フェーズの加速には、以下の3点が不可欠と考える。
・ AI・データ社会を支えるサステナブルな情報社会基盤への継続的な戦略的投資
・ 基礎研究、応用研究に加えて、社会実装、運用を担う人材育成の強化
・ 産学官のイノベーション・エコシステムに資する分野横断的な知の融合
あらゆる産業および社会活動にAIが使用されるようになったこの時代において、電子情報通信技術と電力技術は、サステナブルな情報社会基盤の構築に向けて、研究から開発、社会実装までを見通した投資の優先度を明確化すべき領域であり、人材育成強化と分野横断的な知の融合は必須である。両学会とも、自由な発想でおこなう基礎分野から産業応用・社会実装に至る分野までをカバーしており、本基本計画の実行にあたっては、こうした学会の有する知見や機能を有効に活用することが有益である。
また、AIの演算基盤となる高性能半導体は電気がなければ動かず、情報がなければ機能せず、情報を処理すれば必ず熱の発生を伴う。AIを単なるソフトウェアではなく、情報・電力・熱を一体とする社会インフラとして設計する視点こそが、サステナブルな情報社会基盤を実現する鍵である。
3.提言
(1)AI・データ社会を支えるサステナブルな情報社会基盤への継続的な戦略的投資
日本成長戦略17分野に対して2040年までに370兆円の官民投資を行う政府方針が発表されている。情報通信はそのうちの一つであり、APN、海底ケーブル、次世代ワイヤレスが主要な製品技術とされている。電子情報通信と電力エネルギーは、社会の安心・安全を支え、グローバルでの競争優位性や安全保障を左右するだけでなく、他の成長領域をも下支えする「社会基盤そのもの」となっている。したがって、両技術領域に関しては、主要な製品技術に該当するか否かにかかわらず、国家の社会基盤投資として位置付けるのが妥当である。また、将来を見据えた国際競争力確保のためには、これら技術領域の基礎研究を含む大学等における中長期的な研究開発にも継続的に投資を行う必要がある。
我が国ではすでにワット・ビット連携官民懇談会が設置され、データセンター・通信網と電力系統の一体的整備の検討が官民協働で進められている。この枠組みをさらに発展させ、再生可能エネルギーの出力変動に応じてコンピューティング需要を時間的・空間的に柔軟に調整する需給協調や、演算に伴い発生する熱の地域における有効利用を含む、電力・情報・熱を統合した社会基盤設計への投資を戦略的に位置付けることを求める。これは、再生可能エネルギーの導入拡大とAI需要の急増とを両立させ得る、我が国発の統合的アプローチである。
(2)基礎研究、応用研究、社会実装、運用を担う人材育成の強化
第7期科学技術・イノベーション基本計画の「①知の基盤としての「科学の再興」」で述べられているように、多様な場で活躍する科学技術人材の継続的な輩出は非常に重要な観点である。
具体的には、サステナブルな情報社会基盤の実現に向けては、電子情報通信や電力エネルギーの基礎技術を創出する研究人材と、技術を応用して新たな価値を生み出す人材を、同時並行で育成していく必要がある。加えて、電子情報通信・電力エネルギーを現場で支え続ける人材(フィールドエンジニア)は、いわば情報社会におけるエッセンシャルワーカーであり、医療や土木と同様、その役割や評価を正当に位置付ける必要がある。電子情報通信学会でも情報通信エンジニアリング部門を創設し、フィールドエンジニアの地位向上を目指す取り組みを進めている。
電気学会においても、電力設備の建設・運用・保安を現場で担う技術者の確保・育成は電力安定供給の生命線であり、同様の課題認識を共有する。また両学会は、中学生・高校生等を対象とするジュニア会員制度の相互乗り入れをはじめ、次世代人材の裾野拡大、とりわけ女性理工系人材の育成にも連携して取り組んでいく。
加えて、AI・データ社会においては技術の進歩スピードが著しく速いため、理工系と人文社会系を横断する文理境界人材の育成により、社会受容性の醸成、倫理的課題への対応、制度設計、経済への影響分析など、社会的要請に応えるための環境構築が求められる。さらには、こうした動きは一国だけで進められるものではなく、標準化・国際連携を担う人材の育成・活用も重要である。企業、アカデミア、府省庁が連携し、人材流動性と育成の仕組みを強化することを求める。具体的には、複数の専門領域を跨ぐ人材の育成、博士人材の多様なキャリアパスの創成、若手研究者の挑戦機会の更なる創出、地方研究者との接点の強化、女性理工系人材の活躍促進等があげられる。
(3)産学官のイノベーション・エコシステムに資する分野横断的な知の融合
エネルギー資源に乏しく、地震や災害が多く、かつ、極端な人口減少局面に置かれている我が国において、レジリエントな都市構造を構想し、技術開発の進展をふまえた電子情報通信・電力エネルギーの最適化を図ることは、日本の国際競争力および安全保障の観点からも、最重要テーマとして位置付けるべきものである。また、複雑化する社会課題に対応するためには、電子情報通信・電力エネルギー分野内にとどまらず、機械、土木、医療等の他分野との連携を含めた分野横断による統合知の結集が不可欠である。第7期科学技術・イノベーション基本計画の「④産学官を結節するイノベーション・エコシステムの高度化」で述べられているような産学官連携や地域イノベーションを進めるためにも、国内の学会が有する分野横断的な知の集積、専門家ネットワークを、政策対話の場として位置付け、国として、国内学会をより戦略的に活用する仕組みを強化することを求める。両学会を含む国内の学会は、所属組織に依存しないフラットな場であることを活かし、中立的立場から、産学官をつなぐ結節点として重要な役割を果たし得る。
分野横断的な統合知を国際競争力へと転換するうえで、標準化は要となる。電気学会は電気規格調査会(JEC)を擁し、約1,200名の委員が規格・標準化活動を担っており、日本発の技術をIEC・ISO・ITU等の国際標準に結びつける活動を強化している。こうした学会が有する標準化機能を、国の標準化戦略と有機的に接続する仕組みの構築を求める。
4.おわりに
第7期科学技術・イノベーション基本計画の実行フェーズは、我が国が科学技術立国としての基盤を再構築し、AI・データ社会を支える次世代のサステナブルな情報社会基盤を確立するための重要な局面である。サステナブルな情報社会基盤への継続的な戦略的投資、基礎研究から社会実装、運用までに至る人材の育成、そして分野横断的な統合知の結集は、いずれも個別に進めるのではなく、相互に連動させながら加速していく必要がある。
電子情報通信学会と電気学会は、関連研究分野、産業界、アカデミア、府省庁等の多様なステークホルダーをつなぐ結節点として、学術的中立性に基づく議論と政策対話の場を提供していく。変化の速度が一層増す中、我が国がサステナブルな情報社会基盤を構築し、国際社会において確かな競争力と信頼を得られるよう、両学会は関係各所と連携し、本基本計画の実行フェーズの加速に貢献していく。
【引用】
[1] 電子情報通信学会創立100周年宣言
[2] 電子情報通信学会 会長声明「第7期科学技術・イノベーション基本計画に向けての提言」
[3] 電気学会 新グランドデザイン(2022年7月)
[4] 電気学会 会長演説「電脳熱融合~機能のインターネット(IoF)による調和循環文明への進化をめざして~」:電気学会雑誌、146巻7号(2026年7月)
